始動する香港のバーチャルバンク

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本年に入ってから、香港金融管理局ではIT企業群に向けた「バーチャルバンク」のライセンス発行が相次いでいます。

「バーチャルバンク」とは、基本的には窓口となる店舗を設けず、顧客の獲得から銀行サービスの提供まで原則オンラインで行う銀行を指し、通常の銀行が提供する「インターネットバンキング」とは異なる性質の銀行といえます。このような業態は、2018年5月まで行われた検討会及びパブコメの内容を踏まえた、「バーチャルバンクの承認に関するガイドライン」として具体的な設立要件などが示され、制度整備されました。

2019年5月、HKMAは8社へのライセンス発行を完了し、さらには6~9ヶ月以内には各社のサービス提供が開始される予定でした。しかし、いわゆる「逃亡犯条例」に関する香港当局側とデモ隊との衝突事件により、膠着状態が発生していました。当初、2019年中のサービス提供は難しいとみられていましたが、プレーヤー数社は社員や家族を対象とした試験的なサービスを行いながら業務体制を強化し、2020年初頭を目処に本提供を開始するとロイターの取材に答えています。バーチャルバンクのライセンス取得後には、融資業務に力を入れると発表するプレーヤーも複数出ています。

以下では、ライセンスを取得した企業および取得検討中の企業のサービス内容の概要をご紹介します。

認可されたバーチャルバンクの概要

Ant SME Services
アリババグループの金融関連企業である アント・フィナンシャルの完全子会社アリペイ・ホールディングス(香港)によって香港で設立された会社。 中小企業向けオンライン融資を主軸に据えるとされています。

Insight Fintech
総合家電メーカーの Xiaomiと、ノンバンクAMTDグループの合弁企業で、株式の90%を Xiaomiが保有。香港の銀行口座保有率は95%(2017年統計)と高水準ですが、近年の外国人労働者増加に伴い、オンライン金融サービスの必要性が高まっています。 Xiaomiは国内で普及するスマートフォンブランドを展開しており、IoTへの強いポジショニングと「人々にテクノロジーを用いた金融サービスの楽しさを享受できるように」というビジョンでのモデル構築が進められています。

Infinium
WeChatなどを提供するTencent、中国四大商業銀行の一角である中国工商銀行や投資管理会社のHillhouse Capital Group、香港証券取引所、New World Developmentのゼネラルマネージャーのエイドリアン・チェン氏らの出資による合弁企業。決済、銀行業務、投資、プロジェクト支援など、出資各社が専門分野ごとにサポートし、金融のフルサービス提供を予定しています。また、外国人労働者やアンバンクト層が少額のデポジットで金融サービスを利用できるプロジェクトにも積極的に取り組んでいます。

Livi VB
香港第2位の総資産を保有する中国銀行(香港)、金融及び物流産業のデジタルテックプレーヤーJD Digits、香港を中心とする英国のコングロマリットJardinesの3社の合弁企業。AI、ビッグデータ、ブロックチェーンなど注目度の高いテクノロジーを活用したエコシステムを構築しています。また、金融とライフスタイル分野の親和性や補完性にも注目しています。

Ping An One Connect
保険会社としては中国最大の時価総額を誇る平安保険の一部門として設置され、これまで2300以上の中小金融機関の業務効率化ソリューションを提供しています。提供するプラットフォーム上の取引量は約200兆円以上(2018年時点)を達成し、顧客数も増加し続けています。人工知能やクラウドプラットフォーム、バイオメトリクス認証を活用した銀行モデルを予定しており、中国本土を拠点とする平安保険からOne Connect社を香港で独立させ、2019年中の香港証券取引所上場を目指すと明言しています。

SC Digital
通信事業者として香港最大のHKT、不動産開発にも力を入れる通信系企業のPCCW、中国最大のオンライン旅行会社 Ctrip Hong Kong、発券銀行でもあるスタンダードチャータード銀行の合弁企業として設立されました。オンライン上で金融サービスにアクセスするだけでなく、通信関連サービスや旅行サービスなどと組み合わせ、ライフスタイルの提供を含めた戦略を立てているようです。

WeLab
WeLabは唯一自社だけでバーチャルバンクを展開予定の企業です。香港でWeLendというP2Pオンラインレンディングのプラットフォームを運営しており、2017年10月にシリーズBで2億2000万米ドルの資金調達を実施、 香港のFintechメディアによる「香港のFintech企業TOP20」にも選出されるなど急成長を遂げるプレーヤーとして注目を集めています。

ZhongAn Virtual Finance
ZhonAn Virtual Finance Limitedは中国本土に拠点を置く ZhonAn(衆安)Technologies Internationalを親会社に持ち、今回の認可で香港でのサービス提供が可能となりました。ZhonAn Internationalの代表であるウェイン氏は、習近平政権が2014年に提唱した経済圏構想「一帯一路構想」と「グレーターベイ構想」を取り上げた上で「2つの経済圏が重なり、国際金融センター及びビジネスハブでもある香港でオンラインバンキング事業を立ち上げる重要な一歩であり、香港から世界中のユーザーにサービスを提供できる」と述べています。今回のライセンス付与に先立つ2019年1月には、配車アプリを提供するGrab社と提携しており、自動車保険から医療領域に至るまで多様な金融商品を顧客に提供していくとみられています。

参考資料

“Guideline on Authorization of Virtual Banks”, Hong Kong Monetary Authority, 2018/05/30

“Hong Kong digital banks launch faces delay due to protests – sources”, REUTERS,  2019/09/17

“Eight virtual banks approved for HK”, ASIA BUSINESS LAW JOURNAL, 2019/07/15

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