英国チャレンジャーバンクが直面する資本規制の壁

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英国においては近年、チャレンジャーバンク制度が促進されてきましたが、その外部環境に変調が見られています。

2019年9月30日付Financial Times紙等の報道によればメトロバンク、CYBG、サンタンデールUKなどのチャレンジャーバンクが苦境に立たされていることが述べられています。

国内5番目の規模を誇るサンタンデールは、株価が9月25日に約18%下落しました。その背景には、銀行規制の強化とBrexitの影響があったとされます。同日、メトロバンクも債券発行が未達に終わったことを受けて、30%もの株価下落がみられています。ヴァージンマネー銀行を買収し、英国6番目の規模の銀行となったCYBGも、同社の株価が4月比で約50%落ち込む結果となっています。

イングランド銀行は銀行業の新規参入政策として、これまで10社以上の新規銀行免許を発行してきましたが、参入後に待っている世界観として、英国の厳しい資本要件が存在します。具体的にはEU圏であれば総資産1,000億ユーロ以上、米国では資産2,500億米ドル以上の金融機関にのみ要件が課されるMREL(破綻処理時の損失吸収力となる自己資本と適格負債の要件、詳しくは小立敬「欧州大手銀行に対するMRELの適用」(2018)を参照)が、英国では資産150億ドル以上の金融機関に適用されるため、大手のチャレンジャーバンクがその対象となることが挙げられます。

UK Finance等の銀行業界団体は、MRELなどの規制適用を、規模に応じた形で適切に行うべきとしてロビー活動を行っているようですが、短期的な解決は困難という見立てがあります。イングランド銀行は「業界の懸念に耳を傾け、競争を促進する措置を講じている」と付け加えているものの、「参入障壁を設ける制度整備をしている以上、成長への障壁が生まれていることもまた自然な帰結だ」とも述べています。

一連の流れを受けて、チャレンジャーバンクは大幅なコスト削減と業務効率改善を表明しており、プレーヤーの統合が進むのかもしれません。特に今後Brexitの影響が及ぶ中では、チャレンジャーバンクが買収のターゲットになる可能性があるとされています。

消費者利便の高いサービスを提供する意図で始まったチャレンジャーバンク制度は、プレーヤーが「十分に」大きくなる前にシステミックリスクを懸念した規制コストの高さに直面するという政策的な課題が、今回浮き彫りになりました。ある種、イノベーションに関する制度が最初から正解にたどり着くことが難しい点の一例ともいえると考えられます。

英国では、OakNorth銀行が設立3年目の2018年に国内初の黒字化を達成し、2019年2月には4億4,000万米ドルの資金調達を実施するなど、躍進を見せています。このような成功事例もある中で、銀行業界の活性化に向けた政策がどのように調整されていくのか、動向が今後も注目されます。

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