英国のプレミアム預金口座における苦境

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2018年頃から、口座手数料を徴収する付加価値型の預金口座の提供が英国の大手チャレンジャーバンクで広がっています。銀行免許を取得した企業が自社の決済サービスや保険商品と組み合わせる事で、利便性を高めるものとして注目されていました。

しかしながら、英国は日本と同様に、預金口座の維持手数料を無料とする金融機関も多い中で、プレミアム口座モデルの普及は大手チャレンジャーバンクにも難しいようです。

英国のモバイル専用銀行であるMonzoは月額6ポンドの手数料を徴収する “Monzo Plus”というプレミアム口座を2019年4月に開始しましたが、同年9月に新規の募集を中止しています。同行では、無償サービスの範囲として、デビットカードと預金口座を組み合わせ、モバイル上の決済や個人間送金が可能なアプリの利用と、カード盗難時の補償サービスを提供していました。有償のプレミアム機能として、手数料無料で海外でのATM引き出しが 400ポンドまで可能になること、旅行保険、スマートフォン端末の補償、1.5%のカード金利の減免などを提供する計画を進めていましたが、実装には至っていません。

この試みは、消費者がどのような価値をパッケージ化された銀行口座に求めているのかを探るべく開始されたものでした。The Guardianの報道によれば、Monzoの担当者は「まだベストな形が見えていない」と述べ、サービスの停止と新規チームでサービスを根本から見直すと表明しています。Monzoは現在約300万人のユーザーがおり、預金口座から決済手数料と個人向けローンによって収益を得ていますが、預金口座本体を収益化するモデルには苦心していることが窺えます。

他のプレーヤーとしては、2015年にデビットカードの発行を開始し、証券取引やビジネスバンキングに参入するなど、英国のチャレンジャーバンクで最も売上を伸ばしているRevolutの事例が挙げられます。

2019年10月1日に発表された同行の2018年度の売上高は、前年の4倍以上の5,800万ポンドに増加しており、FTの報道では、2019年末までにリトアニアでの銀行業を開始すると公表するなど、EU圏での拡大を予定しています。

                                ※Revolutサイトより

同社の売上の約70%はクレジットカード手数料によるもので、アクティブユーザー約110万人が利用するデジタルバンクとして成長を続けています。その他の売上として、月額約1000円からの追加料金を支払えば、旅行保険や空港のラウンジ利用サービスが受けられるなど、サブスクリプションモデルからの収益も増加していることも注目されています。これらの売上も2018年に120万ポンドから1,680万ポンドまで増加していますが、加入者数の推移については公表を見送っていることから、利用者数に変化があるのではないかとの推測もあります。

チャレンジャーバンクが口座のプレミアム化に難航している理由として、英国ではロイズ銀行HSBCをはじめ基本的には無料で口座保有できることから、消費者が口座を有償で利用するハードルが高い事が挙げられます。一方で、欧州大陸では口座維持手数料を徴収することは一般的なモデルとして認知されており、例えばフランスでは90%の人々は口座維持手数料を支払い、その費用を金融機関別に比較するサービスがあるなど、消費者が口座維持手数料の存在を前提として、金融機関を選択する文化が根付いていると思われます。

日本でも昨今、口座維持手数料に向けた議論が行われていますが、イノベーティブな銀行がサービス競争を繰り広げる英国の現状は、日本にとっても示唆を得られるものと言えます。

参考資料

“Revolut points to ‘viability’ after increasing revenues” , FINANCIAL TIMES, 2019/10/01, https://www.ft.com/content/e25c62f2-e3a1-11e9-9743-db5a370481bc

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