2019年Fintech界重大ニュース(前編)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

今年も早いもので、年の瀬を迎えようとしています。そこで今回は、2019年に巷で騒がれた金融関連のニュースを振り返りながら、マネーフォワード Fintech 研究所長の瀧が独自の目線で解説し、インタビュー形式でお届けしたいと思います。

合江)本日はよろしくお願いいたします。

瀧)よろしくお願いします。

合)本題に入る前に、今年マネーフォワード Fintech 研究所に新卒メンバーが2人配属されるなど、体制にも変化があったかと思います。専属のメンバーを迎えたのは初めての試みですよね。

瀧)そうですね。今までも研究所にメンバーが所属することもあったのですが、元営業や企画といった職種で、専任職ではありませんでした。そのため、今回のように最初から専任職として所属してもらうのは初めてでした。でも今回所属してくれた二人は、新卒と言ってもちょっと大人びてる「シニア新卒」のため、一緒に仕事しやすいですね。

合)ありがとうございます。瀧さんに同行して外部の方にご挨拶させていただく時も「新卒」として扱われることはあまりないですね。

瀧)二人が研究所にジョインしてくれたお陰で、今までよりも幅広くアウトプットや発信ができるようになり、意義のある実験などにも取り組むことができたので、研究所として良い方向に進んでいると思っています。

合)ありがとうございます。それでは、マネーフォワード Fintech 研究所の2020年の目標をお聞かせください。

瀧)マネーフォワード Fintech 研究所は4年前に設立しました。当時は「Fintech」という言葉が、「ブロックチェーン」や「MaaS」と同様に、「重要なキーワードとして耳にするが実態がよくわからないもの」でした。そこから1~2年かけてFintechの全体像や意義を発信し、その後、より深いテーマを発信していくようになりました。

東京2020オリンピックも開催される来年は、「高齢化と金融」や「金融業の未来像」といったテーマを発信をしていきたいと考えています。

合)今ちょうどオリンピックの話が出て思い出したのですが、ラグビーワールドカップ2019日本大会はご覧になっていましたか?

瀧)ちょうど3位決定戦を観戦しに行っていたんですよ。ニュージーランド対ウェールズ。

合)うらやましいです!

瀧)これまであまり日本にとって馴染みがないスポーツでしたが、80分という試合時間はちょうど集中して観戦できますし、意外とルールもシンプルですよね。

その1「オリンピックとキャッシュレス」

瀧)お金に関することに話を戻すと、ラグビーの試合会場におけるビールの消費量は、サッカーの5~6倍あるそうです。私が観戦した際も、試合前に20分くらい並んでビールホルダーを買っている人がいましたね。

ラグビーワールドカップは、ワールドワイドパートナーをマスターカード社が務めています。会場ではNFC決済が可能な売店もあったのですが、やはりVISAカードを使ってPIN認証で決済している人が多かったですね。そういう場面を見ていると、NFC決済のアピールをもっとうまくすべきだなと感じます。

合)私もついこの前、サッカー観戦のために英国風パブチェーンの「HUB」に行く機会がありました。そこではクレジットカード、EdyとNFC決済が使えたのですが、外国の方もNFC決済はあまり使っていない様子でした。

瀧)そうですよね。ラグビーだけでなく、オリンピックとキャッシュレスも常にセットで語られます。オリンピック・パラリンピックは全体を通しても数週間で終わり、インバウンド需要もそこそこに落ち着くと見込まれています。

今回の消費増税とそれに伴うキャッシュレス還元施策は、キャッシュレスに注目させるという点では良い効果があったのではないでしょうか。官民問わず、広告やキャンペーンを継続的に実施した成果だと感じています。

合)地方都市での開催もあるようなので、キャッシュレス環境の整備が進むといいなと思います。ラグビーワールドカップ開催時の訪日外国人数は推定200万人で、前年比で微増していますが、1人当たりの平均消費額は16万円というデータが出ており、それほど多くないという印象でした。

瀧)主に観光目的での訪日外国人は、「短期移民」としての位置づけがあると言われています。旅行で来ていただいてたくさん消費してもらうというのは、活発な消費者を増やすという意味でも政策的にとても大事なことです。外国の方の日本での決済を便利にして、消費を増やしていただくのは1つの政策の軸である一方で、キャッシュレスと還元がセットで考えられがちな現状の日本の先に何があるのかを示すことは非常に難しいと思います。

例えば、ATMに行かなくてもよくなるためには、オートチャージをどのカードでもできるようにすべきという議論にもつながります。この議論が進まないと、いつまでもクレジットカードがキャッシュレスの主役になり続けます。クレジットカード以外の、デビットカードや電子マネーといったキャッシュレス決済手段を浸透させていくためにどうすべきかを、官民で取り組んでいきたいですね。

その2「今年、一番注目された〇〇Payは?」

合)ありがとうございます。それでは2つ目のトピックを伺います。今年一番日本で注目された〇〇Payは何でしたか?

瀧)これは・・・難しいですね。普通に考えたらPayPayだと思うんですよね。利用者とのアクセスポイントを広げ、デジタルな決済の利便性を追求した成果ではないかと思います。個人的には、「いつも何を使っているの?」とよく聞かれるのですが、コンビニからチャージするのをつい忘れてしまうので、〇〇Payはあまり使っていないですね。そのため、オリコカードのポイントを貯めているのをアマゾンギフト券に交換して利用していますね。

合)なるほど。確かに今年は、PayPayを初めとするQR決済サービスの利用が急激に広がりましたね。ちなみに、僕は利用しているすべての電子マネーに一週間分まとめてチャージする日を作っています。そしてその後一週間、チャージした電子マネーで過ごすっていうライフスタイルをとっています。

瀧)すごいですね(笑) これがFintech研究所だ!って感じ。結論として、どの〇〇Payが注目されたかを示するのは難しいですが、あとで述べるLINEさんとの件もあってやはりインパクトが強く、よく利用された支払手段としてはPayPayが強いなとは思いますね。

その3「マイナンバーカードとeKYC」

合)ありがとうございます。今年はe-KYCに絡めて、マイナンバーカードを用いた政策構想が話題になった年かと思います。実は先日、紛失したマイナンバーカードの再発行手続きのために区役所に行ったのですが、その経験から、モバイル端末にe-KYCの機能をつけてくれたら嬉しいなと個人的に実感しました。

瀧)そうですね。以前からロードマップとしてSIMカードにマイナンバーカードの基盤をつける話があり、実現されればいいなと思っています。マイナンバーカードもスマートフォンも両方無くしてしまう可能性はありますが、より紛失しにくいものに機能を依存したり、もし紛失したとしてもリカバリーが効きやすいものに本人確認機能を対応していく必要があるのではないでしょうか。

マイナンバーカードを多くの人が使えるツールとして活用するため、何年もこのトピックを取りあげているのですが、これが本当の正攻法ではないかと考えています。マイナンバーカードをシンプルで説明しやすいものにしていきたいですね。

日本人は国家に捕捉されることに嫌悪感を抱きやすい国民性だからこそ、捕捉されにくい現金決済が好まれていることが考えられます。これはキャッシュレス施策にも影響していることから、軽視できない問題ですね。

e-KYCについては、去年の施行規則の改正により、便利に使える枠組みが増えています。これにより、ビデオチャットと写真付き身分証明書の2つの組み合わせて本人確認を行うことができます。これまで口座開設には煩雑な手続があり、時間も要したのですが、e-KYCによって申請当日に口座を開設できるようになりました。
有名なところではTRUSTDOCK社というベンチャーが本人確認サービスを展開されており、その会社のページや資料を見ていると、「サービスデザインに向けた感覚が活きているな」といつも思いますね。複雑な制度をわかりやすくする設計に素晴らしさを感じています。こうしたサービスの延長線上に、口座開設が簡単にできるようになると、「なめらかな金融の世界への移行」が意義のあるものになりますね。そのため、本人確認というテーマに大きく関わるものとして、次はマイナンバーカードにスポットが当たると思います。

その4「情報銀行に寄せられる期待」

合)ありがとうございます。4つ目として、来年6月から開業する情報銀行について、少し深堀りさせてください。

瀧)情報銀行については、総務省がその認定の要件を各方面で調整しました。情報銀行は、日本IT団体連盟という民間団体が認定する仕組みで、「銀行」から想起されるような金融機関ではなく、「情報流通基盤」としての役目を果たすものとして期待されています。ただ実務的には、日本IT団体連盟の認定を得なくても、情報元の顧客の同意などがあれば事業を営むことが可能です。そうした中で、「きちんとした信用を認定制で担保しましょう」という事が、今回のIT連盟による認定制度につながりました。この認定制度については、「データ活用における倫理や流通のあり方をどのような哲学に基づいて行うのか」という整備が正しく行われたものと理解しています。

データ利活用の倫理整備は比較的新たなイシューですが、現在認定を受けている銀行などの金融機関は、すでに十分に信用されている主体であるのも事実です。そのため、情報銀行として実際にどのようなビジネスモデルを構築していくのかについては、とても関心があります。

また、個人情報については、一般的な主観としては価値が高いものの、第三者にとっての価値は、価値訴求がいまだ浅い部分もあります。例えば、自分のプライベートなデータは見られたくない(主観的価値が高い)けれど、他社から見たらそこまでみたいものでもない(客観的価値が低い)みたいなところがあるわけです(COMEMO記事)。個人情報は、ユーザー体験をより豊かにできるからこそ、活用時に価値が高まると思っています。例として、相続といったテーマでの活用に期待を持っています。

マネーフォワードに対してもそうした期待を向けていただいているかもしれません。その場合も、ユーザーがこれだったらオプトインしたい、という価値あるサービスにデータを活用していくという形が適切ではないかと考えています。

その5「FATF審査を契機に社会の混沌を考える」

合)今年はFATFの審査が秋から行われ、日経Fintechでも特集が組まれるほど注目されていましたよね。

瀧)そうですね。そもそも日本は十数年くらい前まで、個人情報保護法も存在せず、事件が起こった後で事後的に規律を設けて正そうというのが一般的な制度の捉え方だったのではと思います。言い換えれば、本人確認で事前にテロリストを排除するというよりも、ダークサイドに落ちた人を捕捉できるようにするという制度であったのではないかと考えています。

混沌とした社会の中で、誰しもがきれいな100点の人ばかりではないという前提に立ち、多面的な人間像を認めてきた社会が、比較的最近までの日本のスタンスといえたのかもしれません。平成の間に、政治とか犯罪に関して整備されてきた法律などを考えると、実にそういう社会的な変化があったわけです。

一方で、FATFは事前・事後の確認が本質的に問われる時代といえます。「テロリストが銀行口座を開設するのを容認していいのか」、「武器購入などにお金を流すことになるのではないか」という視点から、FATFが厳しくなってきたのだとすると、善人と悪人をきっちり分けるべきという世界が広がったといえますね。

日本はいきなりそのような世界に入り、様々な対応をしてきました。例えば、外国送金を地域金融機関から行うことはさすがに今後難しくなるのではという専門家の意見も聞かれます。そういった業務は、メガバンクさん等が今後は担うなど、棲み分けをすべきではないかという検討がなされるのではないかと考えています。

他にも電子マネーや資金移動業、暗号資産交換業などの新しいテック系サービスがテロリストなどに資金供与する温床となるのではないかという議論もされています。これらは海外送金の例と同様ですが、本人確認の正確性や、その本人の信用性確認を行っているかというリスクベースの議論になります。社会を構成する全ての人や団体が善ではない中で、リスクに合わせた体制整備の問題の検討と対策が進められる必要があるのではないでしょうか。

その6「Libraは日本で広がるのか」

合)ありがとうございます。先ほどの暗号資産交換業の本人確認に絡めて、Libraについてお伺いします。日本での取扱が開始された場合、Libraが与えるインパクトについてどのようにお考えですか?

瀧)Libraは、技術的には失敗していないものだと思っています。ステーブルコインと類型される暗号資産であるLibraは、「先進国通貨と交換できる通貨」として受け取れる人が多いのが特徴です。もし世界中の人が生まれながらにしてLibraの口座を持っていれば、その通貨同士を交換できるので、各国家の発行する通貨が必要ではなくなるという世界観に近づきます。

ただし、問題は大きく3つあると思っています。

1つ目にして最大のポイントは、Facebookが起案者だったこと。Facebookがアメリカとイギリスの民主主義に、危機ともいえるネガティブな影響を及ぼしたことと、またそれに対する説明がなされていないことへの市民の反発が、この構想を難しいゲームにしているのではないでしょうか。

2つ目は、アメリカの野党がネガティブなモメンタムを作ってしまったこと。2019年7月に上院銀行委員会や同年10月の下院金融委員会の公聴会で野党などからの懸念の声と批判を受け、懐疑的な見方が一層広がりました。しかし、実はLibra協会のファウンディングメンバーには女性の権利向上や人生を守るという立派な団体も参加していました。発展途上国の一部では、高い割合で農業労働力を女性に依存しているという統計があり、そのためLibraの発行により、女性が自らの資産で農機具を買い、作業を効率化させるなど、経済活動を主導できるような世界の実現が期待されていました。

日本においてもLibraの採用と普及が社会問題を解決するアクセスポイントになる可能性は高いですが、残念なことにその視点が広まっておらず、新しいものに面白がっている傾向が強いため、現状では普及が難しいと感じています。

3つ目は、通貨が圧倒的に信頼されている発行益のメリットが高い先進国ではLibraが普及しにくい環境にあるということ。途上国において自国の通貨を信頼できない人たちにとり、Libraは資産保全のための重要なツールとなりうるので、Libraはそのような国に限定して広まることになるのではないかと考えています。一方で、そのような国々で先述のFATFも含めた、本人確認が求められる品質で行われるのか、という点は当然ながら残ってしまいます。

※前編は以上です。続きは後編でお届けします。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

SNSでもご購読できます。