米国における顔認証技術の議論

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スマートフォンでの認証手段などとして、私たちにとっても身近になってきた顔認証ですが、その技術について色々な議論があることはそれほど知られていません。本稿では、米国で展開されている議論についてご紹介します。

Wall Street Journalは2月23日、双方の立場を紹介しながら、顔認証技術の正確性と国民の自由権の確保に向けた議論を紹介しています。

顔認証技術には、利用者の判別を差別的要素によって行う可能性や、権利の保護に関する議論が十分に行われていないという指摘があります。米国ではアルゴリズムの正確性や運用セキュリティが確立されない事で市民の権利が侵害されてしまう可能性があるとして、特に権利侵害が発生する可能性が高い法執行機関での利用停止を地方議員が求め、推進派との間で議論されてきた経緯があります。

WSJ記事において、ニューヨーク大学AI Now Instituteのメレディス・ウィッタカー氏は「顔認証技術は特定の偏見をもったシステムとなる可能性がある。システムの透明性確保や、説明責任の義務化が行われない限り、その可能性を否定できず、技術の使用を止める必要がある」と述べています。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の実験の結果によると、一部のアルゴリズムでは、人種によって100倍近くの認識エラーが発生する可能性があることが確認されています。実務的には実験よりも粗雑な環境が考えられることから、エラーの発生率が更に高くなる可能性が指摘されています。

また、民間サービスにおいても、立場の優位性を利用した不必要な監視や抑圧が行われている可能性が問題視されています。公的サービスにおける利用だけでなく、民間サービスについても適切なリスク評価を行い、規制を設けていくべきという意見が支持されています。

一方で、一般的な民間サービスでは権利侵害の危険性は低く、幅広い活用を促進すべきという意見もあります。公的サービスにおける顔認証技術の利用について、情報技術・イノベーション財団の副理事長ダニエル・カストロ氏は「顔認識技術によって人々の行動を監視するネットワークが構築されるのではないかと一部の人が危惧している。しかし、顔認証技術による監視は合衆国憲法第4条の保護によって市民の自由は保証されており、過度に危険視する必要はない」と述べています。

行政や警察における顔認証技術の導入については、可能性はあり得るとした上で、サービス開発者はプライバシー法を遵守し、顔認証システムを利用する全ての政府機関は、国民に対して説明責任を果たすべきと同氏は述べています。

生体認証技術は、決済や行政手続きをシームレスに行うことができる一方で、人々の自由や権利侵害に繋がるリスクを持つものです。そのようなリスクを未然に防ぐために、エラーの種類や確率、発生結果のメカニズムを把握し、ガイドラインの策定についての議論が求められます。米国では、2019年5月に警察署による顔認証技術の利用に関するジョージタウン大学のレポートが発表されたことが今般の議論におけるテーマの一つとなっています。日本における顔認証やデータの利活用についての争点においても、説明責任と安全性の議論においてこれらの米国の議論が示唆に富むものとなるのかもしれません。

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