「銀行API合同交流会」に込めたフィンテック企業の想い

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プロローグ

マネーフォワードでは年に1〜2回、「提携行会議」というイベントを開催しています。読んで字の如く、提携している銀行・信用金庫の担当者を招いて、最近のマネーフォワードの取り組みを紹介しつつ、金融機関側のニーズについて意見交換し、最後は懇親会で交流を深めて次の取り組みの新しいスタートにするためのイベントです。

今年の5月末にAPIの契約・提携が大きな山を越え、「次は提携行会議を開催しよう」ということで検討を始めたものの、新型コロナの感染が沈静化しない中ではリアルの開催は難しいという意見が大勢を占めました。かといって、オンラインの開催ではどうしても一方通行のコミュニケーションになってしまい、金融機関側のニーズを深掘りできず、大きな目的である懇親会で交流を深めることに関してはほぼ不可能と思われました。

今年は、提携行会議の開催は諦めるべきなのか、という雰囲気が漂い始めた時、「いっそ業界全体のオンラインイベントとして大々的にやってはどうか」という意見が出ました。

なるほど、業界全体のオンラインイベントとして他の電子決済等代行業者(以下、電代業者)にも声を掛け、マネーフォワードの提携先だけでなく幅広い銀行・信用金庫にも参加を呼び掛ける、さらに金融庁にも挨拶で登壇してもらう。何よりも、オープンAPIの契約・連携が一段落したこのタイミングで、「オープンAPIの取り組みに対する業界全体としての感謝を表し」、「今後のさらなる取り組みについての新たな出発点とする」という意味で、最適のタイミングと考えられたのです。

一方で、まだ設立されて2年も経っていない電子決済等代行事業者協会(以下、電代協)には、数百人のイベントを開催した実績もなく、そのリソースも十分ではありません。そんな電代協の呼びかけに銀行界や金融庁が応じてくれるのだろうかという一抹の不安もありました。

ただ、私たちはフィンテック企業であり、新しいことにチャレンジすることがフィンテックらしいとも考えられました。また、幸いマネーフォワードには、この数ヶ月間、最大数百人規模にのぼる社内外のイベントをほぼ毎日のようにZoomのウェビナーで開催してきたノウハウがあります。「なんとかなるだろう」「やってみよう」という結論に達するのに時間はかかりませんでした。

金融業界全体のイベント「合同交流会」へ

関係者・団体が多いイベントは、立ち上げの時に、どのボタンをどういう順序で押していくのかが重要です。押すボタンとタイミングを間違えると、準備段階で頓挫してしまうことになりかねません。

まずは電代協の代表理事を務めるマネーフォワードの瀧俊雄取締役に相談しました。瀧さんはこのイベントの意義や重要性をすぐに理解し、「是非やりましょう!」と即答でした。

次に、電代業者の主要なメンバーが色々なテーマをカジュアルに相談しているFacebookのMessengerグループに、このアイディアを持ち出しました。すると、これもほぼ全てのメンバーがすぐに賛成の「👍」を押してくれました。

すぐに主なメンバーでオンラインミーティングを開催し、「電代業者からのプレゼン」「銀行・信金からのプレゼン」「金融庁からの挨拶」「金融界代表からの挨拶」などのコンテンツが決まりました。また、開催時期もできれば7月中ということで、ギリギリ7月30日(木)の15時から1時間半と決定しました。

一方、準備や本番のリソース面の懸念が示されましたが、これは言い出しっぺのマネーフォワードが中心になりつつ、各社手弁当でなんとかしようということになりました。また、司会はfreeeの広報担当の野澤真季さんが快く引き受けてくれました。freeeとマネーフォワードは、クラウド会計の分野では激しく争うライバルですが、業界のエコシステム作りという点では、肩を組んで業界を引っ張ってきた心強い仲間なのです。

こうして電代協側の体制と覚悟が整いました。

次に金融庁への相談です。金融庁へは、電代業の監督部署である監督局銀行一課とフィンテックやオープンAPIの推進部署である企画市場局信用制度参事官室に、イベントの開催の目的や概要を説明し、イベントへの参加と挨拶のための登壇を依頼するメールを送りました。この1年間、銀行API導入のために、数え切れないほど打ち合わせをし、メールで状況をやりとりしてきた延長上で、なんでも相談できるホットラインができていたことが活きました。

戻ってきた金融庁からの返事は、人事異動の時期なので誰が登壇するかは不確定であるものの、趣旨に賛同し、参加・挨拶とも受けていただけるという内容でした。

金融庁からの参加承諾は、非常に心強いサポートになりました。すぐに全銀協、地銀協、第二地銀協の事務局にメールを送り、イベントの趣旨と内容を説明するとともに、会員銀行に対してイベントの周知をお願いしました。

全銀協からもすぐに返信があり、会員銀行への周知の承諾とイベントへの事務局メンバーが参加する方針との回答でした。ただ、Zoomが視聴できない銀行もありそうだという指摘があり、イベントの様子を録画して、後日みられるようにしてほしいという相談もあり、対応することになりました。最後に、全国信用金庫協会と全国信用協同組合連合会にも同様に連絡したところ、これもすぐに賛同が得られ、「電代協主催で金融業界全体のイベント開催」という形式が整いました。

新型コロナのために各組織で在宅勤務が推奨される中とはいえ、これだけの調整を、全てmessenger、メール、オンライン会議だけで、3日間程度で進めることができました。思った以上にスムーズに各関係者の賛同が得られたのは、3年間にわたるオープンAPIの取り組みについて、その成果を報告し今後を展望するために、まさにこのタイミングがぴったりだったということなのでしょう。

プレゼンする金融機関の調整が難航

こうしてとんとん拍子に「銀行API合同交流会」の開催が決定しましたが、準備は意外なところで難航します。「最近の取り組み」をプレゼンしてもらう金融機関の調整です。

電代業者側は、プレゼンを希望する事業者の全6社(ソリマチ、弥生、freee、マネーフォワード、Moneytree、Zaim)ですんなり決まりました。

一方で、銀行側は、「使いやすいAPIを提供していて」「先進的なサービスの構築に積極的な」金融機関に登壇してもらい、他の金融機関の今後の取り組みの参考になることが期待されました。また、大手銀行だけでなく色々な規模の銀行が参考にできるようにという意味で、メガバンク1行、地銀2行、第二地銀1行、信金1庫、ネット銀行1行の合計6先に登壇してもらうことを目指しました。

電代協メンバーで相談したところ、色々な金融機関の名前があがりました。各業者が全ての金融機関と親密に取り組みをしているわけではないので、推薦する金融機関が少しずつ違います。その意見を集約して候補を決め、親密な電代業者からお願いするように進めたのですが、すんなり受けてもらえる先もあれば、難色を示す先もありました。

最終的に登壇の趣旨に賛同していただき、目標の全6先の登壇が決まったのは3日前の7月27日(月)のことでした。それでも、プレゼンを承諾していただいた6先は、どこもそれぞれの考えに基づいて特徴ある取り組みを行っていて、必ずや他の金融機関の参考になるだろうと思われる先でした。 このように業態を超えた6先に登壇してもらうことは当初はかなりハードルが高いと考えていましたが、電代業者からの依頼を受けて金融機関が社内で議論し、業態を超えて取り組みを共有し、金融業界全体として前に進んでいく雰囲気が作れたことは、オープンAPIの取り組みの大きな副産物といえるかもしれません。

3日連続のリハーサル

登壇する金融機関の調整と並行して、2週間前から各協会を通じてイベント開催を周知したところ、1週間前には150人を超える参加登録が集まるなど、集客はまずまず順調でした。

一方で、電代業者6社、金融機関6先が1時間半のイベントでプレゼンをするということは、1先5分ずつのスムーズな運営が求められ、初のオンラインイベントながら運営側の難易度は高く、ミスは許されない状況となっていました。

運営サイドでは、7月27日(月)、28日(火)、29日(水)の3日間連続で、全ての登壇者が必ずどこかの日に参加するリハーサルを実施しました。リハーサルでは、順番に、オンライン接続がスムーズにできたかどうか、音声や画像などの通信環境は良好か、プレゼン資料の画面共有手続きは大丈夫か、といった点を確認していきました。

その過程で、登壇者と運営側が自己紹介し、お互いに「今回はありがとうございます。当日はよろしくお願いします!」と言葉と笑顔を交わしたことで、硬い雰囲気がほぐれ、リラックスしたムードになり、内に秘めた熱量を共有することができました。

前日夜までには、すっかり準備が整いました。そして、登録ユーザー数は330人を超えていました。

業界初のオンラインイベント「銀行API合同交流会」当日

あっという間に当日。本番のスケジュール(予定)は次のように、分刻みでびっしり詰まっていました。

<銀行API合同交流会の式次第>

・15:00-15:10  電代協代表挨拶(代表理事会長、マネーフォワード取締役 瀧俊雄)

・15:10-15:20  全銀協会長行挨拶(三菱UFJ銀行様)

・15:20-16:20  各金融機関・電代業者の取り組み

  15:20-15:25  ソリマチ様

  15:25-15:30  京都信用金庫様

  15:30-15:35  弥生様

  15:35-15:40  ふくおかフィナンシャルグループ様

  15:40-15:45  freee様

  15:45-15:50  GMOあおぞらネット銀行様

  15:50-15:55  マネーフォワード(執行役員 X本部渉外担当 神田潤一)

  15:55-16:00  T&Iイノベーションセンター様

  16:00-16:05  Moneytree様

  16:05-16:10  富山第一銀行様

  16:10-16:15  Zaim様

・16:20-16:25  金融庁挨拶

・16:25-16:30  電代協監事挨拶(京都大学公共政策大学院教授 岩下直行様)

一つ一つの内容については、ここでは詳しく述べませんが、イベントの様子の動画を公開していますので、詳しくはそちらで直接ご覧ください。

運営は完璧でした。司会をしたfreeeの野澤さんも完璧でしたし、オンラインの運営を担当したマネーフォワードのメンバーも完璧でした。唯一大きく目立つ失敗したのは何を隠そう、私自身でした(笑)。

私自身は、登壇者のmessengerグループで、登壇者に時間配分を共有する役割を担当していました。登壇者のプレゼンは、若干遅れ気味で進みましたが、何とか運営バッファーの5分の範囲で収まるように進んでいました。

その過程で、時間を管理している私自身がオーバーするわけにはいきません。イベントの登壇は慣れていたはずでしたが、この時間管理のプレッシャーからか、私は、スライドショーの全画面ではなく、発表者用の画面を誤って共有したままプレゼンを進めてしまいました。しかも、別室から一人でプレゼンをしていたため、誰も指摘する人はいません。そのまま発表者用の画面できっちり5分間のプレゼンを終了し、ほっと一息ついた時に、messengerのチャットでその事実を指摘されて愕然としました。愕然とするとともに、この日のほぼ唯一の失敗が自分自身で、なぜか「良かった」と思いました。

その後、金融庁からの挨拶、電代協監事からの挨拶と進み、ほぼ時間通りに銀行API合同交流会は幕を閉じたのでした。

エピローグ

【参加者】336人(1アカウントで複数人が視聴していたケースも勘案すると500人規模が視聴したと推定される)

【アンケートによる満足度】83%

【主な意見】

・普段お話を伺うことが困難な各電代業者、金融機関からの様々な事例を直に聞くことが出来たことは有益であった。

・電代協が主催となってこれだけの規模感でイベント実施できる日が来ることが素直にうれしく思います。

・進行が大変スムーズだったと感じました。

・ぜひリアルな交流会も状況が改善されましたら、開催のほどお願いいたします。

当日の記録として、イベントの最後に登壇者で撮影したスクリーンショットが残っています。電代業者、銀行、金融庁など、金融業界の様々な組織から参加した登壇者が別々の場所から笑顔で一つの画面に収まっている写真です。

何よりもこの写真が、このイベントの意義と成功を物語っていると思います。

電子決済等代行業は、まだ成立して2年の若い業態です。また、銀行APIの取り組みも、大きな節目を越えたとはいえ、まだスタートしたばかりです。

この写真を見ると、改めて、これまで色々な方々に支えられて大きな山を越え、やっと一人前と認められるようになったことに対する感謝の気持ちを表すとともに、これからの決意を表明したイベントだったのだと思います。今回の銀行API合同交流会は、いわば「電代業者の成人式だった」と言えるかもしれません。 成人には、これまで以上に自立と責任が求められます。

私たち電代業者は、この日に参加した様々な関係者と一緒に、日本の金融サービスのユーザーのために、これまで以上にしっかりと役割を果たしていき、これまで以上に新しいチャレンジを前に進めていきたいと思います。

今回のイベントの開催にご協力くださった皆さん、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

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