米国における信用機会の均等化に向けた歴史

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米国では、消費者の信用情報の組成に際して、人種や性別などによる差別の防止を目的とした「消費者信用機会均等法 (The Equal Credit Opportunity Act)」が設けられています。昨今、日本の制度でも与信審査におけるAI等の活用が進んでいますが、その将来像の中では信用機会からの排除が行われないことは重要な論点となることが想像されます。本稿では、米国において長らく存在してきたこの観点の議論の経緯をご紹介します。

消費者信用機会均等法(以下、ECOA)は、誰にでも融資を得られる権利を保障するものではないものの、与信等の申込者に対し、公平な与信基準が適用されることを定めており、米国において消費者の統一的な信用機会を保証する制度であるといえます。

当初、ECOAが成立した背景には、1970年代の米国で性別による差別が残されていたという問題が挙げられます。女性の社会進出に向けて、金融における法的な整備が充分ではないことを受け、金融サービスの公平な提供を目指す目的で1974年に法案が可決されました

同法の制定までは、例えば独身女性に向けた与信基準では、貸し手の裁量により、今後婚姻の可能性があることから、就労継続の期待が減少するため、信用が低下する蓋然性が高いといった判断が行われていました。しかしながら、女性の生涯労働年数の増加や婚姻選択の多様化という社会に適応した検討が行われ、上記のような婚姻状況による差別や、性別による差別を行うことが禁止されました。その後の制度改定の中で、人種や宗教などを理由とした差別が追加的に禁止されていきました。

現在、同法は人種、肌の色、宗教、性別、婚姻状態、年齢、雇用形態等における与信基準の差別的な取り扱いを禁止しており、様々な人々の特徴や生き方に対する金融排除を防ぐ規定として機能しています。近年、同法が適用されたケースで代表的なものとしては、アフリカ系アメリカ人が自動車購入のために与信の申し込みを行った際、白人が同様の資産状況等で申し込みを行ったケースに比べて利息額が約163ドル多く請求されたという苦情がFederal Trade Commission(連邦取引委員会)に寄せられ、同委員会は人種的な差別があったとしてECOAに違反するとの判断がされたケースがみられます。

このような制度的背景を基礎として、進展した仕組みのひとつに信用スコアがあります。米国には著名な信用スコアが複数ありますが、中でも最も有名なFICOスコアは様々な判断要素により構成されるものの、人々の特徴や生き方ではなく、行動に起因したものである点が注目されます。

FICOスコアの主な要素としては、クレジットカードの支払履歴、利用済みの信用利用枠、支払履歴の長さ、利用したクレジット手段、直近の信用調査機関への照会履歴が含まれていますが、人種や性別、個人のライフスタイルといった内容は当然に含まれていません。

(FICOスコアイメージ:FICO公式サイト “myFICOより引用”)

また、米国以外のケースとして、南アフリカでは米国とは異なる背景で信用情報の公正化を目指す施策が行われています。南アフリカでは、信用スコアへのアクセスの障壁を下げる目的で「国家信用法(National Credit Act)」が2005年に制定されています。同国には通常の信用情報へのアクセスが制限される人やクレジット情報がそもそも存在しない国民がみられることから、消費者の信用基準について、差別的な取り扱いや信用情報を悪用して高額な債務返済を求める業者が存在していたという背景があります。そこで「国家信用法」を制定し、消費者が信用情報へのアクセスを容易にするとともに、それまでの不公正な信用取引の是正や差別的な取引慣行を禁止する意図があります(※南アフリカ銀行協会資料参照)。

このような例は、制度として信用機会を確保するという政策意思に基づいた取り組みともいえます。日本では長らく、例えば大企業に所属することなどが信用の代表的な例でしたが、雇用や様々な基盤が流動化し、AIによる与信判断などの重要性が高まる中、類似の議論が出てくる日も近いかもしれません。

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