若者の与信問題を解決する米Kikoff

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米国では、特に若者が融資を受けづらい環境に置かれています。1974年に「消費者信用機会均等法(ECOA)」が制定されて以降、消費者の信用情報の組成において公平な与信基準を適用させる取り組みが行われてきました。また、その上で同国ではFICOスコアなどの信用スコアの仕組みが発展してきた背景があります。

一方、米国の信用スコアは過去の返済履歴や既存の債務残高などに基づいてスコアを組成するケースが多く、これまで融資を受けた事がない消費者においては、実際の信用力が高い場合であっても低いスコアとなってしまう「thin credit file問題」がみられています。

そのため、特に信用スコアが組成されていない未成年者に対し、そもそもどのような要素を基に信用スコアが組成され、どのような行動をとればスコアが改善されるのかというリテラシーを広める方法が模索されてきました。そのような中で、近年は若年層を対象とした少額融資や、独自の信用スコアを提供するサービスがみられています。

少額の融資と独自の信用スコアを組成する “Kikoff”

 “Kikoff”は米国で信用スコアを持たない若年層や、スコアが低い貧困層を対象に少額の融資を提供しています。同社は2020年12月にベータ版の提供を開始し、本年6月末より本サービスの提供を開始したまだ日の浅いサービスですが、2021年6月までに累計で4,250万ドルを調達しており、元米財務省長官のテレサ・レッセル氏やNBA選手のスティーブン・カリー氏も出資しています。

利用者は最大500ドルまで融資の申込みを行うことができます。借入金は自社のECサイト内でのみ利用可能となっているため、プリペイドカードの発行を必要とせず、月額利用料や返済の遅延損害金も無料に設定されています。

また、毎月の返済履歴や自社独自の信用スコアを組成してプラットフォーム上に表示することで、利用者の返済行動がどのように信用スコアに影響を与えているかを表示し、スコアの改善に向けた意識付けを促しています。Kikoffのスコアは、同社からの融資の返済履歴(35%)、利用頻度(30%)債務を負った期間(10%)などを要素にスコアを組成しています。これはFICOスコアの要素である過去の返済履歴(35%)、既存債務の残高(30%)、債務を負った期間(15%)、債務の種類(10%)、新規の与信額(10%)と類似するものですが、Kikoffのスコアは外部機関によるこれまでのスコアを考慮しないという点で、利用者における現時点の実際の信用力を測っているとみることもできます。

(Kikoffサービスイメージ画面:公式サイトより引用)

サービスの特徴としては他にも、同社が組成したスコアは米国の3大信用機関(Equifax、TransUnion、Experianのいずれかは公表せず)に提供するため、国内で幅広く利用されている信用スコアを向上させることができる点も挙げられます。そのため、信用スコアを持たない若年層だけでなく、スコアが低い事で融資が受けられない貧困層も利用できるサービスとして注目されています

自社が融資を行った上で擬似的な信用スコアを組成する事で、将来の信用スコアの組成に備えられるという点で、同社のサービスは金融教育の新たな取り組みといえるのかもしれません。これまでは金融における実務的な教育が難しい状況にあった中で、信用スコア以外の領域においても今後の動向が注目されます。

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