先週に引き続き、BOEが発表したレポート “Future of Finance”の中の「9つの検討推奨事項」の続きをご紹介します。
今回は、英国が欧州を代表する金融センターの役割を今後も果たし、国際標準の策定をリードするべきという提言や、BOEが金融業に対し低炭素社会の移行に必要な施策などを含む内容となります。
④ 国際標準の策定における中心的存在となる
金融センターの一つである英国は、世界経済の繁栄、市場を牽引する立場、金融システムの発展により、通常の国より金融セクターから受ける経済的影響が大きなものとなります。Brexitにより、国際的な金融ビジネスモデルの構築に大きな変化をもたらす可能性がありますが、BOEの使命はその先の問題を見据えることです。引き続きBOEは、国際標準を策定するリーダーとして民間事業者や政策立案者と協力していくことが重要と考えています。
国際標準の中心的存在に
BOEは、既に協力な国際標準の活用促進と、規制当局との協調により、効率的で安全な国際金融を支えるための大きな影響力を有しています。BOEは Brexitの有無に関わらず、最低限、10年後も同等の影響力を持ち続けるべきであり、また、データ・ローカライゼーションなどの新たなテーマでも主導的役割を果たすべきと考えます。加えて、BOEは標準に直接影響を与えることで、企業側が標準の採用を検討し、より効果的な資金問題に取り組むべきであり、特に取引後における取引データの標準化に焦点を当てるべきと考えます。その手始めとして、ISDAの共通ドメインモデルを取り巻くスワップ取引や担保に関わる領域が有望と考えられます。
進化する市場ニーズへの取組
今後10年間で、国際的な金融フローやデータの分断状態は緩和されていくものと思われます。しかし、中国や新興国の長期的な成長においては、障壁はまだ残るものと考えられます。BOEは、グリーンファイナンス、サイバーリスクに対する保険、オフショアで現地の通貨建て債券の支援などを、自らの有する専門的な知見によって充足する方法を模索し続ける必要があります。
未来の金融サービスとは
今後10年間で金融の競争力とモデルの変化を予測していくにあたっては、いくつもの要因を合わせて検討していくことが重要です。その要素としては、Brexitや、Fintechがもたらす新たな可能性および過去10年にわたる規制の効果・検証などが挙げられます。制度の有効性に関しては、予断を持たない判断を行い、BOEは必要に応じてその権限の範囲内で対応を行うほか、HM Treasury(英国財務省)が金融サービスの成長を促す政策を要望しているのであれば、前向きなサポートを検討すべきと考えられます。
⑤ 低炭素経済への円滑な移行を推進する
低炭素経済への移行は、経済と金融にリスクと機会の両方をもたらします。投資家・貸し手・保険者は、環境の変化、規制の進化、新しいテクノロジーの出現、顧客の変化に関する解決策や、企業成長のビジョンに明確な見解を持っていません。しかし、これらの情報がなければ、金融市場は気候変動に関するリスクと機会を適切に判断することができません。
低炭素経済への移行には大規模な資本の再配分とインフラへの投資が必要になります。ある試算によれば、その額は今後10年間で90兆米ドルを超えるという結果もあります。BOEは低炭素社会への移行のために、意見集約を積極的に実施し、適切なインセンティブ設計を行っていく必要があります。
気候変動に関する開示のあり方
BOEは、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)勧告の広範なプレーヤーによる採用を推奨し、その対象企業の開示を監督する必要があります。また、理想的には今後5年で、主だった財務諸表への内包及び不動産業界における開示強化を提唱する必要があります。中でも、適切な標準の検討と、企業ごとの戦略のあり方が優先事項となると考えられます。BOEも、自らユースケースとなって、同様の標準に照らし、リスク管理やエネルギー使用量削減のための行内目標を公表することも考えられます。
気候のリスク管理の埋め込み
BOEは、金融サービス会社に対し、Climate Forumなど気候のリスクを管理する慣習の醸成浸透に向けたモメンタムを強化したいと考えています。また、最適なユースケースを含む「移行準備」を行うとともに、今後生じうる他の気候変動リスクについても検証を行い、将来の2年おきのストレステストを改良していく必要があります。
⑥ 人口動態の変化に伴うニーズ
人々の寿命が長くなり、個人の退職資金が不足するリスクが拡大する中で、金融サービスの長寿リスクをシェアできる機能が求められています。高齢期に向けたお金の問題を、正確に把握することは困難です。医療費の増加や長く生きるリスクには不確実性があります。長い退職後の生活に備えた資産形成に役立つ金融商品はその中でも最重要の位置づけにあると考えられます。
退職後所得の確保
高齢化のリスクをシェアするサービスが提供される社会では、保険会社への監督体制がその行方を決めます。欧州全体での調和がとられている中、BOEがとりうる制度的な解釈には裁量の余地が残されています。オランダやフランスなどは、長寿化リスクのリスクシェアを行う独自の新しい方法が見出されています。BOEは長寿リスクを共有するという観点から、リスクマージンの検討を調査すべきです。
投資の選択肢に関するサポート
超低金利が長期化すれば、投資における選択の困難化や、年金を支給するために適切な運用資産の供給の面において、問題が生じる可能性があります。そのため、インフラ投資などの資産も検討に入ってきます。BOEはさらに、ギグワーカーやシェアリングエコノミー従事者の生活の保障に向けて、とりうる投資の選択肢についての議論を行うことも検討するべきです。