ゲスト対談:官民の人材交流とリボルビングドア~後編~(株式会社メルカリ 吉川 徳明さん)

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前回は株式会社メルペイ 社長室政策企画ディレクターの吉川 徳明さんのこれまでや経済産業省での公務員としての業務などについてお話を伺いました。今回はその後編として、官民の人材交流や官民両方の側面から、より良い政策を検討する上で求められることなどについて伺った内容をご紹介します。

※前編の記事はこちらからご覧いただけます。

経済産業省からヤフーへの転職

以下、敬称略

瀧)吉川さんが経産省からの転職の決断をされたのは、公務員時代から「いつか一般企業で働きたい」というお考えがあったのですか?

吉川)そうですね。長い職業人生の中で、いろいろな仕事を経験したいという思いもあり、一般企業で働く時期もあるだろうなと思っていましたし、経産省や内閣官房では多忙な業務に追われていたこともあったので、今思えば、家族との時間の確保といった、プライベートな要因も転職を決断する上で大きかったのかなと思います。

瀧)官庁から、ヤフーに転職されるに至った経緯はどんな感じだったのでしょうか。

吉川)東日本大震災への対応の時に、私自身は経産省の立場で多くのIT企業と連携していたのですが、結果的に、その時の縁がきっかけとなって数年後にヤフーに転職することとなり、政策関連の部署に配属になりました。

経産省の情報経済課で震災対応を行っていた際に、もちろん他の多くの企業も素晴らしい対応をしていたのですが、ヤフーの震災対応のメンバーの機動性や執念はちょっと普通ではなく、群を抜いて素晴らしかったことが印象に残っていたんです。既に当時においても、ヤフーの政策企画の部署はかなり大規模で、転職当初はヤフー等のインターネット企業が「セーファーインターネット協会」を立ち上げたばかりの頃でした。同協会で、違法・有害情報の流通を防止するための対策などを検討していました。

具体的には、インターネット上に違法・有害情報が流通しないように事前に自主規制のための基準を設け、違法な情報について通報を受け付けてインターネット上から削除していくという業務です。社会的な意義は高かったと思いますが、かなり専門性の高い分野でもあったので、いかに一般の方々やメディアに知っていただくかが課題でした。    

瀧)インターネット上の違法性や犯罪性が高い情報を削除するというお仕事は、海賊版サイトでの漫画の著作権に関する問題やSNSでの誹謗中傷に関する議論など、その後社会的にも注目されたテーマですね。

吉川)そうですね。一つの会社に閉じた検討だけでは根本的な課題の解決が難しく、有識者の方をお招きして研究会を設置し、自主規制のあり方や対策についての議論をしました。ヤフーには4年ほど在籍し、その後メルカリに転職したという流れになります。

メルカリでのお仕事について

瀧)やはり吉川さんのお仕事の振れ幅が広いですね(笑)。メルカリでは、ヤフーでの経験を活かしたお仕事をされる予定だったのでしょうか。

吉川)ヤフーにいた頃は、インターネット上の有害情報に関する業務を行っていたこともあり、警察と連携して仕事をする機会が多かったので、てっきりその経験を活かしてメルカリでも警察と連携した業務を担当するのかなと思っていました。ところが実際に入社すると、メルペイに関する業務に関わることとなり、当時は経験がない業務だったので驚きました(笑)。

ただ、当時はFintechやキャッシュレスが注目され始めた時期で、それまでは金融や与信分野に私自身がそれほど詳しくなかったこともあって、仕事をしながら学べる良い機会だなと思っていました。結果的には面白い世界に深く関わることができてよかったなと思います。

(オンライン対談の様子 吉川さん(写真左)と瀧(右))

瀧)なるほど。私は新卒からずっと金融業界にいたのですが、ペイロールなど今まで議論すらされ得なかったトピックが、ここ数年で徐々に取り上げられてきているなと感じています。十分な議論がされてこなかった政策課題について、これまでとは違った見方の検討が進められ、企業側でも継続して課題解決に向けたサポートを実施してきたことが大きな理由ではないかなと考えており、その中で取り組みをされてきたのがメルペイさんなのかなと思います。

吉川) 瀧さんにアドバイザーを務めていただいているFintech協会の役割も大きいと思います。私自身これまでさまざまな民間の団体の活動に参加していますが、Fintech協会は、実務に即しつつも、あるべき論に立ち返った本質的な議論をしていただける方が多く集まっていて、こんな団体は珍しいと思っています。こうしたFintech協会の特徴も、日本のFintech分野の政策が大きく進んできたことの一因ではないかと考えています。

個社同士がビジネス上は競争する側面もある一方で、政策的な側面では協調して最適解を考え、弁護士の方にもご協力を仰ぐことができる体制が上手く機能していると思います。また、私たちが普段接している官庁の方々もビジネスの現場の課題をキャッチして政策に活かしていこうという姿勢の方が多く、様々な課題に対して踏み込んだ検討を行って頂いたことも大きく影響していると思います。

メルカリのeコマース領域やFintech全体での議論でもいえることですが、経済学の知見がとても重要だと考えています。法律論だけではなく、日本のキャッシュレスがどうあるべきなのかという観点の検討が必要になるのではないかと感じるようになりました。

瀧)私も経済学はいろいろな理論が補完し合いながら、社会で上手く機能する学問だと考えています。ある意味で社会や制度に対して救いがある学問だと思います。

商品の価格が持つ社会的な機能

吉川) 若干Fintechの話から離れますが、メルカリではコロナ禍で、マスクや消毒液などが定価より高い価格で売買されるケースがありました。メルカリというオンラインの二次流通市場について、一歩引いて、どのような社会的機能を果たしていると理解すればよいのか、経済学者や倫理学者など複数の外部専門家を招いた有識者会議を設置し検討しました。その結果、自由で多様な市場を実現する重要性を確認すると同時に、一定の条件下では取引の制限がありうることなどを整理しました。

一方、個人的には、メルカリのようなオンラインの二次流通市場の登場によって『売る』という行為が民主化されたのではないかと考えるようになりました。硬直的な一次流通価格(小売価格)とは異なり、多数の市場参加者が自由に売買するなかで決定されるメルカリ上の価格(二次流通市場の価格)は、社会にとってどのような意味を持つシグナル・情報になるのか、もっと理解を深めていく必要があると感じています。このことは、経済学において、価格とは何か、市場とは何かを考えることと極めて近く、新しい市場の登場に対して、転売を認めるべきか否か、という次元で議論をとどめていてはもったいないと考えています。    

瀧)メルカリで設定されている価格は、その時点で多数の人が欲しいと思う価値を反映したものに近い気がします。価値情報としてある種の適正性を持っていると思いますし、その情報を物価指数に活かすなどの取り組みも今後あり得るのかもしれませんね。

吉川)将来的な話になりますが、メルカリの価格情報から二次流通の物価指数を出すことができれば、株価指数などのように社会で利用される有益な情報になるポテンシャルがあるのではないかと考えています。少し話を広げると、Fintechやeコマースなどの市場が存在するものを私たちがどう理解し、社会に定着させられるかという検討が重要だと考えています。

瀧)そもそも「自分が平均的なのか」ということが近年把握しにくくなっており、人々が不安に感じる原因になっているのではないかと思っています。そこで、平均値をわかりやすく定義し、広めることで、不安を少なくできるのではと考えています。その上で、「平均的」な人が救われる政策を考えていくことが企業にも求められていると思います。メルカリ内の価格やいろいろな人の消費データなどからそのような平均値を策定することが可能となり、データの活用についても人々の理解が広がるのではないかと思います。

吉川)我々の政策企画チームでも、専門的な知見が必要な社会的な課題が多くなってきていると感じています。課題に応じた専門性をお持ちの方にご参加頂く必要が高まっていくと考えています。私達としても、専門的な知識を活かしてより良い政策をどのように打ち出していくべきなのかという課題を意識して、有識者の方に自主的に働きかけていく必要があると考えています。

瀧)企業側から政策の正しいあり方を発信し続ける仕組みを構築する必要性は、ますます高まると思います。官庁には優秀な方がたくさんおられる中で、専門的な知識をお持ちで、機動的に対応いただける行政官や公務員の方をサポートする仕組みは求められそうですね。

私も3月からChief of Public Affairs (CoPA) という珍しい役職に就いたのですが、私の役割は何なんだろうと考えた時に、一つは、官庁の行政官の方々に対する知見の共有やサポートであると思っています。これまでは金融領域に関わる業務が中心だったので、これからは領域を広げなければと思っています。

ベンチャー企業の良いところはジョブ型で仕事をしている点だと思います。急に配属や業務が大幅に変わることはないので、民間側でコミュニティを作って、長期的にサポートできることはメリットだと思っています。

吉川)例えば、IT業界の例だと情報通信分野については、行政、企業、研究者などが参加するコミュニティが長い間の議論を通じて形成されています。Fintech分野においても、こうしたコミュニティができていくと良いなと思っています。

官民相互の人材交流について

瀧)Fintechにおいても、ご意見をいただける研究者の方の母集団を広げていくことは必要だなと私も感じます。

企業が国と連携してパブリックアフェアーズや政策をサポートする点に関連して、現在、官民相互でのジョブチェンジを考えている方もおられるのではないかと思うのですが、そのような方へのメッセージなどがあればお伺いしたいです。

吉川)あくまで職業選択という極めて個人的な事柄なので、官民問わず、ご自身がベストと考える選択をすることに尽きると思います。一般企業で政策に携わろうとすると、政策企画やパブリックアフェアーズなどの業務を通じて、基本的には事業活動に貢献するという文脈で仕事をすることになります。一方で、この分野で仕事をしている方々の中には、より良い社会を目指したいという個人的な動機を強く持って取り組んでいる方が、私の周りにたくさんいらっしゃいます。国の立場にいても、一般企業側であっても、そのような価値観や信念を大事にし、お互いに協力してより良いルールを作り、その先のより良い社会に向けて一緒に知恵を出し合っていければと思います。

瀧)ありがとうございます。対談の初めに考えていたことなのですが、最後は吉川さんの故郷の北海道に向けては、お考えのことってありますか。

例えば、北海道は夕張市の元市長が北海道知事になられるなど、新しい取り組みや試行錯誤が行われている印象があるのですが、吉川さんは北海道に戻るご予定はあるのですか?

吉川)そうですね、しばらくは東京にいる予定なのですが、その先については悩ましいと思うこともありますね。

北海道は現時点で人口減少が続いており、さまざまな社会課題への解決を模索する実証フィールドになりうるという話を、かつて霞が関で勤務し、今は北海道で研究されている方と話したことがあります。東京一極で日本全体の課題について検討するのではなく、みんながそれぞれの場所でそれぞれの課題に向き合い、試行錯誤することが極めて大事だと思っています。 瀧本哲史さんが良く仰られていた“Do your homework.”(自分のやるべきことをする) の実践ですね。いずれは自分もそういう取り組みに関わることもあるかもしれないと考えています。

瀧)吉川さんのこれまでや、公務員と一般企業両方の経験から、より良い政策を検討する上で求められることについてご意見を伺いました。

本日はお時間をいただきありがとうございました。

吉川)ありがとうございました。

本記事は、株式会社メルカリとのコラボ企画で、メルカリの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」にも連携記事が掲載されています。

Chief of Public Affairsに就任したマネーフォワード瀧 俊雄さんに、その可能性について聞いてみた(前編)

Chief of Public Affairsに就任したマネーフォワード瀧 俊雄さんに、その可能性について聞いてみた(後編)

是非こちらも併せてご覧ください。

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