「マネーフォワード Fintech研究所 瀧の対談シリーズ」の第10回をお届けします。今回は、マネーフォワードケッサイ株式会社 取締役会長の家田 明さんをゲストにお迎えし、ファクタリングの仕組みや日本でのこれまでの議論の経緯、直近の状況などをテーマにお話を伺った内容をお届けします。
今回のゲスト: マネーフォワードケッサイ株式会社 取締役会長 家田明さん
1988年 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、同年に日本銀行に入行。考査局、京都支店、営業局、金融研究所、金融機構局などを経て、2011年 から2013年まで、鹿児島支店長。2016年に金融機構局 金融高度化センター長に就任し、ITを活用した金融の高度化、リスク管理と内部監査、地域プロジェクト支援、金融機関の働き方など、金融機関のリスク管理・経営管理の高度化を支援。2018年に、マネーフォワードに入社。現在、マネーフォワードグループで企業間後払いサービスや売掛金早期資金化(ファクタリング)サービスなどを手がけるマネーフォワードケッサイ株式会社 取締役会長。
(以下、敬称略)
瀧)
以前、このFintech研究所ブログで、事業性評価をテーマに対談をさせていただきました。今回はファクタリングをテーマにお話を伺えればと思います。
家田)
よろしくお願いします。
企業の資金繰りを改善したいという課題意識
瀧)
家田さんが入社されてから3年ほどになると思うのですが、マネーフォワードケッサイの取締役会長に就任されて1年半経ち、就任当時と最近の仕事の変化や感想をお聞きしたいです。
家田)
もともとマネーフォワードに入社する理由として、日銀にいたころから中小企業の資金繰りを何とかしないといけないという問題意識があり、中小企業の資金調達問題が改善すれば、日本経済にとって非常に大きな追い風になると考えていたことが背景にありました。そんなわけでマネーフォワードファインというグループ会社でオンラインレンディングの事業に取り組みましたが、金融機関によるトランザクションレンディングサービスの提供拡大や、利用状況などを踏まえてサービスを終了することとなり、マネーフォワードケッサイに移りました。
マネーフォワードケッサイでは、二者間ファクタリングを手がける事業などを通じて、元々の問題意識としてあった中小企業の資金繰りをサポートしたいと思うようになりました。
異動から1年以上経過しましたが、コロナ禍の影響を受けている経緯もありますが、やはり円滑な中小企業の資金調達という観点では依然として厳しい状況にあると思います。そんな中で、二者間ファクタリングを普及させることができれば、私が思い描いていた世界に近づくのではと強く思っています。
(対談の様子: 写真左が家田さん)
瀧)
マネーフォワードケッサイは、早期から銀行業との協業に着手できたのでは思っています。悪質なファクタリングサービスを提供する事業者もいる中で、そうではないファクタリングを行う事業者との区別が徐々にできてきたと思うのですが、どのようにお考えですか?
家田)
金融機関側においても、二者間ファクタリングの有用性を認識し、金融サービスの一つの形として、融資の補完的な役割をご理解いただけた結果と考えています。その上でどういう業者と取り組みを行うのが良いのかという検討を重ね、ファクタリング事業者との協業に向けた流れが出来てきたと考えています。
ファクタリングとは
瀧)
改めてですが、ファクタリングとはどのようなものかを簡単にお聞かせください。
家田)
ファクタリングとは、主に中小企業が持っている売掛債権をファクタリング事業者に売却することによって、資金を調達する仕組みです。
また、ファクタリングには三者間ファクタリングと二者間ファクタリングという種別があります。三者間ファクタリングとは、企業が売掛債権をファクタリング事業者に売却するという事実を売掛先に通知して行う取引の手法で、日本では1970年代から行われている歴史の長い仕組みです。利用企業には資金調達を行うことができるメリットがありますが、どちらかというと、様々な売掛先への請求事務をファクタリング業者が代行することで業務効率化を図る側面が強いものです。
一方で、二者間ファクタリングは、企業が売掛債権を売却する事実を売掛先に知られない形でファクタリング事業者に売却し、資金調達を行う仕組みです。三者間ファクタリングは売掛先に債権を売却した事実を通知するため、売却した企業は資金繰りに難があるのではないかと認識され、その後の取引に影響が及びかねないという懸念があります。そのため、中小企業においては二者間ファクタリングの利用率が高い傾向にあります。
瀧)
二者間ファクタリングの場合、売掛先からの入金はどのような流れになるのですか。
家田)
売掛債権の売り手であるファクタリングの利用企業に入金が行われます。その後、利用企業がファクタリング業者に入金することでお金の流れが完結します。
瀧)
つまり送金が2回行われるということですね。この場合、売り手企業に差し押さえ等が行われている場合は、ファクタリング業者への送金が行われないというリスクがあると思うのですが、あっていますか。
(資料: マネーフォワードケッサイ作成)
家田)
その通りです。差し押さえ等の理由で売り手企業側からファクタリング業者への送金が行われないリスクを前提として取引を行う仕組みとなります。ファクタリング利用企業はファクタリングを利用する際、売掛債権から低利率ではあるもののいくらかの手数料をファクタリング業者に支払い、その差額を受け取るという形になります。
悪質なファクタリングとは
瀧)
二者間ファクタリングに悪質な業者が存在すると伺ったのですが、昔からそのような業者は見られたのでしょうか。
家田)
これは推測の域を出ない話ですが、昔から貸金業を装って悪質な貸付を行う業者が存在しており、このような業者は闇金融業者と言われています。ところが貸金業法の改正に伴い闇金融業者への締め付けが厳しくなり、貸金業を名乗ることが難しくなりました。そこで「ファクタリング」という名称を用いることで、実質的には貸金業であるにも関わらず、隠れ蓑のような業態が生まれたのではないかと思っています。
瀧)
ありがとうございます。最近は悪質なファクタリング業者が報道された背景もあって、本来の意味でのファクタリング事業を行ってきた業者が潔白性を示す必要が出てきたということですね。
給与ファクタリングとは
瀧)
このような悪質なファクタリングを行う業者が取り沙汰された経緯の中で、給与ファクタリングに注目が集まったと思うのですが、どのようなものか簡単にお教えいただけますか。
家田)
給与ファクタリングとは、労働者が会社に対して持っている給与債権をファクタリング業者に売却することで給与の支払い日までにお金を手にすることができるというサービスで、一昨年くらいからかなり広まりを見せていました。
(資料: マネーフォワードケッサイ作成)
ところが、高額な手数料によって実際の給与額よりもかなり少ない金額しか手にできないケースや、ファクタリング業者から高圧的な取り立てを受けるといった被害が多く出たことが問題となりました。このような被害を受けて、昨年3月に金融庁が給与ファクタリングは貸金に当たるという見解を示しました。そのため、貸金業登録をしていないと闇金融にあたるという整理となり、貸金業登録を行っていない業者はかなり減少する結果となりました。
やはり悪徳で頭のいい業者が「給与の前借り」ではなく「給与ファクタリング」という名称を使い始めたことで、その仕組み自体も急速に広がってしまったのではないかと思っています。
悪質なファクタリングを巡る裁判例
瀧)
ここ最近の悪質なファクタリングに関する裁判事例について伺いたいです。
家田)
大阪地方裁判所の平成29年3月3日の判決では、悪質業者がファクタリングと名乗った上で行う取引について、ファクタリング業者が債権回収のリスクをほとんど負っていないことや、売主は買戻しを行わざるを得ない立場にあったなどの事情を考慮して、このファクタリングによる金銭の授受は貸付であると判断しました。
そのため、数年前から二者間ファクタリングの中に悪質なケースとして貸付とみなされるケースは存在していたと考えられます。
瀧)
そうすると、二者間ファクタリングにおける悪質な事例の整理が裁判所でも示されてきた中で、正規のファクタリングを行う事業者の整理がついてきたということでしょうか。
家田)
一部では二者間ファクタリングは全て悪質であるという論調が強い時期もあったのですが、昨年の裁判において、二者間ファクタリングは債権の売買であって貸金ではないという判決が出ました。これにより二者間ファクタリングの中にはきちんとした業者と悪質な業者がおり、後者が偽装ファクタリングにあたるという理解が広がった事で、現在は二者間ファクタリング全体に対する批判的な論調はかなり落ち着いていると理解しています。
正規のファクタリングと悪質なファクタリングの違い
瀧)
ありがとうございます。正規のファクタリングと悪質なファクタリングとの線引きとしてはどのような点があげられますか。
(資料: マネーフォワードケッサイ作成)
家田)
正規の二者間ファクタリングの場合、売掛債権を買い取るのはファクタリング業者であり、売掛先が何らかの理由で債務不履行となった際のリスクはファクタリング業者が負担します。また、ファクタリング利用企業に対して追加で金銭を請求することはないので、正規のファクタリングは「ノンリコース(注)」である点が、悪質なファクタリングとの最大の違いだと考えています。
(注: 売却した売掛債権以外の債権への影響がなく、万一債務が何らかの理由で履行出来ない場合でも債権の売り手に対する追加の取り立て等が行われない「非遡及性」を指す)
瀧)
ここ2年程でだんだん正規と悪質なファクタリングの線引きが明確に整理され、家田さんが参加されていた「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会(事務局: 中小企業庁)」が一つの合意形成の場になったのでしょうか。
家田)
仰る通りだと思います。中小企業の資金繰りについて考える中小企業庁の検討会では、これまで中小企業の資金調達の1つの大きな手段であった約束手形の利用率が減少したことで、これからの資金調達の手段をどのように確保していくかが議論されてきました。その議論の中で、同検討会の報告書においてファクタリングが1つの手段となりうるという位置づけをしていただきました。
もちろん、ファクタリングの利用にあたっては、悪質な業者の存在への注意喚起や、中小企業が安心してサービスを利用できるような何らかのガイドラインの策定なども引き続き必要になってくるのではと考えています。
前半はここまでです。後編では、オンライン型ファクタリング事業を行う事業者による任意団体であるオンライン型ファクタリング事業者連絡協議会(OFA JAPAN)の設立からこれまでのお話や、これからのファクタリングに期待される未来像について伺ったお話などをご紹介します。
後編はこちらからご覧ください。