
VISAは2020年1月12日、米国で口座接続のソリューションを提供するPlaidとの合併に関する事実上の中止を発表しています。
2020年1月にVISAはPlaidを当時53億ドル(約5,800億円)で買収することを発表し、Plaidの決済関連サービスや本人確認基盤を用いることで、VISAが圧倒的地位を持つBtoC決済をはじめとする、決済インフラの付加価値が大幅に高まる可能性が注目されていました(注)。
しかし、その後2020年11月に米司法省(DOJ)は反トラスト法に基づく訴訟を提起しました。DOJは、訴訟を提起した理由として「VISAがPlaidを買収することで、Plaidの競争力を奪い、結果的にVISAが市場の支配率を高めて独占を強化し、他社からの競争上の脅威を排除する可能性がある」と市場独占の観点での問題を指摘しています。
Bloomberg Law上で公開されたDOJの訴訟に関する書類の中で、2019年3月にVISA側でPlaidの買収を検討するミーティングが開かれた際、PlaidがVISAの脅威となる可能性を火山に例えて整理していたとされるメモが添付されています。Bloomberg Lawの資料によると、VISAは火山の水面上に出ているPlaidの「銀行口座への接続機能」や「口座の認証機能」、「資産を確認できる機能」はサービス機能の一部に過ぎず、水面下には「不正検知」や「信用評価・引受」、「本人確認」、「広告やマーケティング」など、数多くの潜在的なチャンスが秘められており、いずれVISAを脅かすという整理を行っていたのではないかとDOJ側は主張しています。
(VISA側のメモとされる画像:Bloomberg Lawより発行されたDOJによる提出書類より引用)
当初、VISA及びPlaidはDOJによる訴訟が提起された事について「法的根拠に欠陥のある主張であり、反対する」旨のコメントを出していました。しかし、2021年1月12日にVISAは「当社とPlaidとの合併は、開発者のイノベーションが促進されるのみならず、金融機関や消費者に大きな利益をもたらす一方、当社が買収の意向を発表してから既に1年が経過しており、複雑な訴訟を完全に解決させるのは更に相当な時間を要する」とコメントし、買収計画の中止の代わりに訴訟を取り下げる合意をDOJとの間で取り交わした形となりました。
VISAのアルフレッド・ケリー氏は今回の発表で「私達は世界中のカードや金融機関口座にリアルタイムでの送金が可能な “VISA Direct”を提供することで、複数のカードや、ACH、リアルタイムな決済ネットワークを用いて世界中に資金を移動させることができる中、今後ともPlaidとのパートナーシップに期待している」と述べています。
世界的決済ブランドによるスタートアッププロバイダーの買収については、他にも2020年6月にMastercardが同じく接続プロバイダーのFinicityの買収を発表しましたが、こちらは同年11月にDOJからの承認を受けています。
今回のVISAとPlaidの合併中止に至った背景として、合併が発表された2020年1月からの約1年間でテック企業の評価が大幅に上昇したことに注目する意見もあります。Plaidの既存投資家は、係争を理由に合併を中止し、通常のIPOないしはSPACにより上場することでVISAの買収金額である53億ドルよりも高い評価を株式市場から得ることができる可能性を挙げているとする見方もあります。また、VISAが合意契約の解約手数料をPlaidに支払っていないことから、Plaid側から合併の中止を持ちかけたのではないかという意見もあります。
(注)VISAによるPlaidの買収については、こちらもご覧ください。