米会計ソフト最大手のIntuit社は 2020年2月24日、クレジットスコア管理サービスを営むCredit Karmaの買収を発表しています。本ブログでは過去にも相互参入企業としてこの2社を見てきた中、買収とその背景情報を整理します。
Credit Karma社は2007年創業の、無料でクレジットスコアレポートを参照できるサービスです。登録ユーザー数は1億人を超える最大手、100社以上の金融機関のクレジットカードやローン商品を提案し収益化を行っており、直近年度の売上は10億ドル弱と公表されています。昨年からの大型IPOにおける市況の軟調を踏まえれば、 今回の買収は71億ドルと未上場ベンチャーの買収としてはかなりの規模となり(対するIntuit社の時価総額は公表前時点では約774億ドル)、既存市場でビジネスモデルが確立できた企業の強みが評価された形といえます。
今回の買収はIntuit社の融資仲介サービスの事業構築を大きく加速させるものとなります。同社は2017年のTurboのローンチ以来、Intuit社はそれまでのソフトウェア中心の体系に加えて、自社が豊富に持つデータを融資に活かしていく戦略を取ってきました。今回、買収に際して発表したファクトシートでは、米国人の半数近くが「その日暮らし」であることに触れ、借入に依存せざるを得ない国民が、借入にかかるコストを改善できる可能性を述べています。
Intuit社の収益水準が約70億ドルであることに鑑みれば、既に約10億ドルの規模がある新規セグメントが、株式価値の1/10程度で加わることは魅力的な動きといえます。また、マイナーシナリオかもしれませんが、融資サービス起因でCredit Karma社をturbotaxの代わりに選ぶという可能性も、今回により打ち消すことが可能になったともいえます。Intuit社CEOのGoodarzi氏は、「正しい金融商品選択のためのアシスタントを作ることができる」「フィンテック領域では多くの投資やイノベーションが行われてきたが、この2社の統合して提供する金融サービスアシスタントに匹敵するものは見つけられない」と述べ、市場規模としても290~570億ドルの拡大が可能となったとみています。
(出所)Intuit社公表資料より引用
Intuit社は、元々圧倒的なシェアを個人の納税ソフトウェアにおいては持っていますが、そのクロスセルは中々進んでいなかったという印象があります。過去には2009年に自動家計簿Mintを約1.7億ドルで、2014年には個人の請求管理サービスCheckを約3.6億ドルで買収するなど、個人のお金の管理に向けたM&Aを進めてきましたが、収益的なシナジーがソフトウェア面で発揮されたともいえず、直近ではMintのサービスクオリティが下がった旨が記事になるなど、後ろ向きな見方もされていました。2015年にはQuickenを売却し、一方で2017年にTurboをローンチしたことは、従来のソフトウェア領域から、融資市場というセグメントへとその戦略をシフトしたものと筆者は理解しています。
個人の「確定申告データを自社で持っている」ことは何よりも強い信用情報といえます。それは税当局向けに所得等の情報を 正確に提出していることのみならず、本人性の確認も同様に(融資申し込み以上の)レベルで行えていることを含意として持っているためです。現に直近のIRでも、融資の事前審査を実施することで10倍の申し込み率を実現し、口座開設の効率も事前の情報連携を行うことで5倍にしていたことが述べられています。
(出所)Intuit社投資家向けプレゼンテーション資料(2020年2月4日時点)
しかし、直近のturboのサービス画面を見る限りでは、そのユーザー体験はかなりCredit Karmaにむしろ近いものとなっていたようです。Credit Karma社も直近年の収益成長が20%と、この手のサービスの中では鈍化していた中で、Intuitの豊富な顧客ベースは非常に魅力といえるものです。今回の買収は、双方の弱みを最大プレーヤーとして補完できる組み合わせとなった中で、GAFAに匹敵する信用情報のプラットフォーム価値を実現できるのか、注目されるところと言えます。