ゲスト対談: スコアリングによる新しい信用創造~後編~(LINE Credit株式会社 川崎 龍吾さん)

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今回は、前回のLINE Credit 川崎さんとの対談記事の前編に続き、信用スコアリングサービスや将来の融資事業の形などをテーマに、LINE Credit株式会社の川崎 龍吾さんにお話をお伺いした記事の後編をお届けいたします。前編の記事については、こちらからご覧ください。

レンディングサービスに対するニーズの変化

瀧)サービス特性についてもう少し踏み込んだお話を伺えますか。この前100円を「LINEポケットマネー」で借りたのですが、とても便利で、最初の私の本人確認をするe-KYCの画面がとてもいいなと思ったんです。LINE Payで資金移動業、LINE Creditで貸金業をされておられるので、数円から返済できるという点もイノベーティブだなと感じました。具体的な返済の方法などを教えてください。

川崎)はい、e-KYCの領域については、やはりコロナ禍の影響で方向性の転換がありました。通常では、本人確認はスマートフォンで申し込む手続きは可能なのですが、最後に本人限定受取郵便を受け取ることが必要となっていました。それに対して、e-KYCは画面上で手続きが完結するため、郵便を受け取らずに完結できるようなった事は、コロナ禍におけるユーザーニーズにもつながったのかなと思っています。

借り入れから返済までのフローについても、借り入れは1円単位で申請でき、返済もLINE上から行うことが可能です。そうすると、約定返済日よりも前に繰り上げて返済できる方が多くいらっしゃいました。当社の調べでは、利用された方の約半数が随時返済を利用したとご回答いただいており、そのニーズも高いことがわかりました。サービス的にすごいねとお褒めの言葉や、採算は合うのかというご心配など、いろいろなお言葉をいただいていますが、少しでもお金が余ったら返済しておこうという顧客体験を作れていることは「ユーザーファースト」の観点からはプラスであると自負しています。

瀧)今までの貸金業者ができそうでできなかったことをされていると思います。融資枠が大きくないと金利を低くできないというサービス特性は、ユーザーの都合を考えれば良いものとは言えないですし、長期で返済することも不要な金利につながってしまうと思います。少しでもユーザーが欲しいと思えるサービスに近づくという意味では、有意義ですよね。

川崎)はい、未だにアプリ上で繰り上げての繰り上げ返済ができないローンサービスがある中で、これまでとは一線を画す発想のサービスと考えています。

瀧)さきほどの「非正規雇用者の利用比率が高い」という統計から、受け皿としての役割を実感されていると思うのですが、コロナ禍によって見方は変わりましたか。

川崎)4~5月は、お申し込み件数で非正規雇用者の比率が増えたり、飲食業など業種によって利用比率に差が出たりという事はありました。経済情勢が悪化すると一般的には与信基準が引き締められる傾向にあり、その結果利用者の属性情報で審査に通らないというケースが発生したと考えています。その意味では、そもそも与信の思想が異なる我々のサービスをご利用いただいたケースも多かったのかと考えています。

瀧)貸し出す基準がそもそも違うというのは強みですよね。

川崎)はい。もっとも、LINE上の行動といった我々独自の基準で好ましくないと判断された方のスコアは一定に留まることになっています。どちらかといえば多面的な判断による与信はできていると考えています。

「LINEスコア」の目指す世界観

瀧)ちなみにその行動って、人間が数えられるデータなのでしょうか。

川崎)個々の変数、例えば連絡頻度やコンテンツを購入した件数などのようなデータは数値化されていますが、そういう生の数字は使わず、変数ごとの基準値を超えたか超えないかというように指標化して使っています。一方で、モデルとしてはそれらを組み合わせて且つ数値化しているので、最終結果の数字を個々の変数の値まで立ち戻って説明するというのはできないんですよね。

瀧)変数同士が独立しているようなイメージでしょうか。

川崎)そうですね。ただ難しいのが、ユーザーのスコアがどれほど高くても、それとは別のルールとして、他社でのお借入金額との合計が年収の1/3を超過していたり過去の延滞情報などがあると、行動によるデータを上回って否決されるようなロジックはあります。最終的には与信の観点と貸金業法の総量規制によって判断を行っています。

瀧)なかなか現実的な目線もあるんですね。ありがとうございます。話題は変わるんですが、川崎さんから見て、中国アリババグループのアントフィナンシャルサービスが開発した個人信用評価システムの芝麻信用など、先進的な情報活用を行っているところをどうみているかお伺いしたいです。

川崎)明確な回答になっていないと思うのですが、芝麻信用と僕たちが目指している世界は少し違うと考えています。個人的な考えですが、芝麻信用は最終的に利用者の移動手段や病院の待合の順番に優劣をつけるなど、いわゆる格付けのような世界に近づいているような気がしています。我々のサービスは序列をつけるというより、「スコアを可視化することで、お金との距離を近づけたり、ユーザーに応じた特典を受けられたりするなど、日常が豊かになる体験を提供したい」と考えています。

瀧)それはなかなか語られていない観点ですね。本当は人っていろいろな信用が複合的に存在していると思っています。例えば仕事はとてもできるけど、一緒に飲みには行きたくはないというような(笑)。

その人の行動が重要視されることもあれば、約束能力を高く評価するという考えもあり得ますよね。

社会の全員が利用しやすいスコア

川崎)そうですね。今の「LINEポケットマネー」は返済能力の予測に特化してサービス提供をしていますが、「LINEスコア」自体は金融領域だけではなく、生活領域などの行動データを総合的に考量したサービスにしたいという構想を持っています。信用スコアをC2Cのサービスに導入していただくなど、拡張してご利用いただくことを視野に入れています。

瀧)例えば、Uberなどのサービスだと乗らせる側と乗る側が体験する社会があると思っています。これはジョークですが、本当にフェアな世界を目指すのであれば、「食べログ」が食べる側のサービスだとすると、提供する側がお客さんを評価する「食べられログ」のようなサービスも必要なのではないかと思っています。例えば店で酔いすぎてしまったら星が下がるとか(笑)。

アメリカやイギリスでUberを利用している人に話を聞くと、ユーザーである自分が悪い点数をつけられないように気をつけているそうです。一緒にいることが快適になるよう相互が努力することで、トータルとして過ごしやすい社会になるのではないかと感じていますし、スコアの存在がその課題を解決できるのではないかと思うことがあります。

川崎)なるほど。それは仰るとおりかもしれないですね。

10年後の信用スコアリングとは

瀧)10年後のスコアリングサービスを考えた時に意味のある、もしくはありそうな情報などを伺えますか。

川崎)総論的ですが、今後もう少し個人の時代というかジョブ型雇用のような働き方が増えると仮定すると、Uberのような形態の延長線上で家事代行などのC2Cのマッチングサービスが浸透するのではないかと考えています。

ともすれば、サービスの提供者と受益者が安心してコミュニケーションしたいと思えるようなレビューなどのサービスが必要ではないかと考えています。現在のC2C系のサービスでは、そのサービス内のレビューで担保しようとしているのですが、初めてご利用いただく一見の方は、なかなかマッチングしづらい状態になってしまいます。そのため、LINEのようなプラットフォーマーがそうした課題を解決する一助になりたいと考えています。

瀧)その考え方は私も発想がなかったため、すごいなと思いました。一番最初にその人を保証してあげられるサービスというのは、多くの人の助けとなるサービスになりますよね。

川崎)スコアリングというものは、それだけだととても無機質な冷たい印象のものですが、LINE上で得たスコアリングを用いてその人の社会性を保証できるサービスができればと考えています。

瀧)人間が自分は信頼される人間でありたいと思い、良い習慣を意識的に行う一方で、受動的に信頼を形成することも可能だと思います。

川崎)ローンに寄せた話だと、個人の時代が加速するということは、自由な日常が広がる一方で、不確実な収入を受け入れざるを得ない社会になる可能性もあると考えています。そのような時に生活サポートの選択肢は持っておくべきで、公的な支援は受けつつも、民間の借り入れサービスも選択肢としてあるべきだと考えています。

個人の時代にフィットした与信判断が必ずしも現状のサービスで完全にはできていない中で、新しい信用評価の仕組みが必要だと思っています。LINEリサーチが4月に行った大学生へのアンケートでは、コロナ禍でアルバイトの収入が月額で平均約4万3,000円減少したことがわかりました。この統計を逆に考えると、4万3,000円が上乗せされれば、豊かに暮らすことができるという見方もあります。また、金利の適切さや、本当に返済能力は既存の基準で正しいのかという観点から、もう少しテクノロジーの力でバランスが取れるのではないかと考えています。

瀧)去年の半ばくらいから、世界的な金融システムの重要な課題として、単発などフリーランスの形態で仕事をするギグワーカーの信用をちゃんと理解すべきだというトピックが出ていました。その際に最も重要なのは「ギグワーカーは住宅ローンを借りられるか」という点だと考えています。しがらみのない仕事スタイルを求める人は当然認められるべきであり、それが過度にその人の信用の制約になってはいけないと思います。

英国の中央銀行であるBOE(Bank Of England)が英国や世界の金融機関に向けて公表したレポートの中で、ギグワーカー向けの与信を考慮しているかという事に言及していました。当時は、そこまで中央銀行が考えているのかと驚きましたが、現在では対応が急がれる課題であると思います。

Fintechがユーザーにできること

瀧)アルバイトの話と関連してお伺いしたかったのですが、未来のアルバイトをする人は、当日に給与をもらえるようになるのでしょうか?

川崎)どうでしょう。最近では給与ファクタリングを行う違法な業者が話題にあがっていますよね。ただ、ユーザーニーズとしては若い人を中心に必ず存在しているので、当日払いの給与制度は今後も必要だと思います。

瀧)給与ファクタリングという違法なスキームが出てきてしまうほど、取っ払いの形をとる給与の需要はあると考えています。昔の自分にお金を貸したいと思うような事もありますし、融資は持っている人から持っていない人への資金の移転なので、借りたい人に貸してあげることが必要かなと感じます。

日本は借金という言葉を極端に嫌う文化がありますよね。数年前に高校への出前授業で「借金は悪いことなのか」というテーマで授業をしたことがありました。高校生はみんな借金は良くないというイメージを持っていたので、私独自の答えとして、目的があり、返済計画があれば借金は悪いことではないのではないかと伝えました。

川崎)仰る通りで、返済計画をテクノロジーの力でもう少しサポートできるはずだと思います。「LINEポケットマネー」では毎月の返済の前にLINEメッセージで通知してうっかり忘れを防止できるようなUXも提供していますが、このようにいきなり怖い督促が飛んでくるような極端な世界を回避できるのではないかと考えています。

瀧)督促がポストに届くことに嫌になったり、その結果ポストさえ開かないような人も多くいると思っています。原因として、人間を丁寧に扱っていないからかもしれないと考えていて、適正な手続きに則って督促を送っているのですが、本来はもっと利用者に向き合うことも必要ではないかと思います。

川崎)返済計画や督促にもユーザー・エクスペリエンスの観点があってもいいかも知れませんよね。

瀧)仰るとおりだと思います。個人的には、Fintechサービスは、まず始めてもらって、利用していく中で学習し、上達する事の一助になれればいいなと考えています。貸金はそのなかでもコミュニケーションが重要となるサービスだと思うので、何かできることはないかなと考えたりしています。

(弊社瀧のスコアを見て盛り上がる二人)

瀧)川崎さんの信用スコアリングに対するお考えやサービスの裏話など、貴重なお話が伺えました。本日はありがとうございました。

川崎)こちらこそ、ありがとうございました。

※本対談はLINEスコア/LINEポケットマネーの公式noteでもお読みいただけます。

LINEスコア/LINEポケットマネー公式note

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